2021/08/13
ハワード・マークス氏の『市場サイクルを極める』を読みました。
投資をするなら理解しておきたい「市場サイクル」という重要な概念を説明してくれる良書です。
本書は、景気のサイクルがどの位置にあるのか、それが将来の経済動向にどう影響するのかを推察することが重要であることを教えてくれます。
「市場サイクル」を理解することで、投資の勝ち目を高めることができる一冊です。
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著者のハワード・マークス氏とは
著者のハワード・マークス氏は、投資の世界では著名な方です。
オークツリー・キャピタル・マネジメント共同会長兼共同創業者で、著書として『投資で1番大切な20の教え』があります。読んだという方も多いと思います。
著名な投資家も認めるハワード・マークス氏です。
ハワード・マークス氏の略歴については次の通りです。
オークツリー・キャピタル・マネジメント共同会長兼共同創業者。1995年のオークツリー設立以来、オークツリーの根幹を成す投資哲学の一貫性維持、それに基づく戦略立案や運用プロダクト開発を念頭に、顧客との密接な関係維持を使命に経営に参画している。ペンシルバニア大学ウォートン・スクールを成績優等で卒業(ファイナンス専攻)。シカゴ大学経営大学院にてMBAを取得(ジョージ・ヘイ・ブラウン賞受賞)。シティコープのリサーチ担当、シティコープ・インベストメント・マネジメントのバイス・プレジデント兼転換社債およびハイイールド証券担当シニア・ポートフォリオ・マネジャー、TCWグループのディストレスト・デット、ハイイールド債、転換社債の投資責任者、同社の米国債券部門の最高投資責任者などを歴任
本書のもともとのタイトルは”Mastering the Market Cycle: Getting the Odds on Your Side”です。
『投資で1番大切な20の教え』でも言及していた「市場サイクル」について、より深いところまで記述したものになります。
本書は、貫井佳子さんによる訳により、日本語版が出版されました。
日本語訳も読みやすく、「市場サイクル」の概念をわかりやすく理解することができます。
「市場サイクル」を理解する
投資にとって重要なのは、「市場サイクル」を理解することだといいます。
本書のポイントは、次の紹介文を読むことで理解することができます。
投資において、たった一つの最も重要なことなど存在しない。前著『投資で一番大切な20の教え』で論じた20の要素一つひとつが、成功を願う投資家にとって絶対に欠かせないものなのである。
だが、最重要項目にまちがいなく一番近い要素は、「市場サイクル」を理解することだ。これまで私が知り合ったすぐれた投資家の大半は、サイクルの一般的な動き方と、「今、サイクルのどこに位置しているのか」を察知する類まれな感覚を身につけている。
残念なことに、サイクルの根本的な性質について書かれた文献はほとんど存在しない。そこで私は、サイクルとは何かというテーマに的を絞った本を書く決意をした。
投資家はサイクルを認識し、評価し、どうすべきかをそこから読み取り、それが示すとおりに動く術を身につけなければならない。サイクルに耳を傾ける投資家は、サイクルが引き起こす大混乱を理解し、それに乗じて著しいアウトパフォーマンスを得られるだろう。
本書の読者層は、投資をはじめたばかりの人が読むよりも、もしかしたら投資経験がある人のほうがいいかもしれません。
ある程度の投資経験者であれば、本書が主張する「市場サイクル」を実感をもって理解することができると思います。
中長期の市場のサイクルや投資家の心理、景気のサイクルなどを理解し、知識として取り込んで、次のサイクルへの警戒を怠らないことが重要です。
個別株投資のみならず、インデックスファンドを使った投資でも「市場サイクル」を理解しておくことは、非常に有益だと思いました。
心に刺さるキーフレーズがいくつもあって、読みながら付箋がたくさんつきました。
リスクに対する姿勢のサイクル
本書のポイントとなるのは、「市場サイクル」は人々の感情によって生み出されるという指摘の部分です。
本書では「リスクに対する姿勢のサイクル」という第8章の部分に最もページ数が割かれています。
ここでは、投資家のリスクに対する姿勢の変動に着目することが重要であると指摘しています。つまり、多くの投資家がリスクについてどう考えているか、ということに注目すべきだということですね。
ポイントとなる要約部分をご紹介します。
リスクへの対処について投資家がどう考えているのかを理解することは、追究すべき物事の中でおそらく最も重要なことである。簡単にまとめると、行き過ぎたリスク許容の姿勢は危険の発生を後押しする。そして、リスク回避姿勢が行き過ぎたところまで振り子が振れると、相場は下落し、絶好の買い場をもたらすのだ。(182頁)
そして、こうした変動は、人の心理によって生まれるといいます。
すべてが順調なときに楽観の度合いを強めてリスクに寛容になり、事態が悪化すると心配性になってリスクを避けようとする性向は、ほとんどの人の心理に生まれつき備わっているからだ。つまり人は、一番慎重になるべきときに買いたがり、最も積極的になるべきときに買うのをためらう。すぐれた投資家はこの点を理解しており、逆張りで動く努力をしているのだ。(183頁)
人は、一番慎重になるべきときに買いたがり、最も積極的になるべきときに買うのをためらう…この人間が持ち合わせる性質をよく理解することが重要だということです。
もちろん、タイミングを明確に当てること自体は難しいということを本書も認めています。
ですが、リスクはないという思い込みが広がっているときこそが、「市場サイクル」を見極める有力なサインになります。
これが本書のエッセンスになる部分のひとつです。
投資における大罪
そして、こうした人間が持ち合わせる性質を理解すると、投資の失敗の典型例も理解できるようになります。
それが本書で「投資における大罪」として紹介されている部分です。
これはインデックスファンドを使った積立投資でも重要な点ですので、多くの人に引用部分を読んでほしいと思います。
下落しはじめたあとで市場から撤退すること…は、まさしく投資における大罪なのである。サイクルが下降局面にあるときに評価損を計上すること自体は、恩恵が生じる上昇局面に転じてからも保持しつづけるかぎりは、致命的ではない。本当に悲惨なのは、底値で売り、下降局面での下げを損失として確定させてしまうことである。
このように、サイクルを理解し、その変動を乗り切るために必要な精神的、金銭的強さを身につけることが、投資を成功に導くうえで欠かせない要素なのである。(319頁)
「投資における大罪」とは、下落しはじめたあとで市場から撤退することです。
心に刻んでおきたい言葉ですね。
そうはいっても、人間は感情で動く生き物です。下落局面に恐怖を感じるのはごく普通のことです。
「市場サイクル」の流れをおおまかに理解することが、市場の変動を乗り切るための精神的な強さにつながります。
インデックスファンドで積立投資をする場合でも、「市場サイクル」を理解することが長期の資産形成では大事な一歩になります。
書棚に入れておきたい一冊
この本は2018年10月に発売された本で、私はじつは新刊当初に購入しました。
ですが、この本は結構難解なところもあり、何度も読み返したい気分になってブログで紹介していませんでした。何度も読み込んでいくうちに、じわじわと理解が深まっていきます。
本書では、今回紹介したポイントの他にも、「市場サイクル」の特徴が随所に指摘してあり、本書を読めば世の中の動きから「市場サイクル」を推論するための指標を理解することができます。
2020年の年初に改めて目を通しましたが、改めて読むタイミングとして2020年のお正月は良かったかもしれないと思いました。
著名な投資家も絶賛しています。
ウォーレン・バフェット氏は次のように述べています。
ハワード・マークスからの「顧客向けレター」が届くと、私は何をおいても必ず真っ先に読むことにしている。常に新しい学びがあるからだ。
―ウォーレン・バフェット
チャーリー・マンガー氏も次のように述べています。
「歴史は最良の教師である」と私は常々述べてきた。本書は、歴史から学び、未来を見通す知見を得る方法を授けてくれる。
—チャーリー・マンガー
私のなかで、本書は書棚に入れておきたい一冊になりました。
「市場サイクル」の特徴について言及している書籍は多くありません。「市場サイクル」の特徴を理解することができれば、どんな相場でも冷静に対処することができるようになります。
投資に必要な知恵を身につけたい方に読んでほしい一冊です。