2021/08/13

今朝の日経新聞1面トップはインデックス運用についてでした。
日経新聞1面トップがインデックス運用の話題というのは、時代の流れは確実にインデックス運用にきているのだなと思いました。
ですが、気になる指摘もあります。インデックス運用は「業績情報が株価に反映されず、株価形成がゆがむ可能性がある」という指摘です。
本当なのでしょうか。なんだかインデックスファンドに投資をしていることが悪いみたいですね。
そこで、インデックス運用が市場をゆがめるのか、という論点を理解するための整理をしてみたいと思います。今日のエントリーは、私自身がこの論点について理解を深めるための「メモ書き」でもあります。
今日はやや専門的な話題で難しいところもありますが、お許しを。
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インデックス運用は市場をゆがめるか
ネットで検索したら、金融庁の金融審議会の議事録にあたりました。誰でも読むことができます。
事務局説明で次のような論点提示があります。「インデックス運用が市場にゆがみをもたらすのか」という話題です。
事務局説明
このような特徴を持つインデックス運用が増加しているということ、あるいは増加するとなると、企業の中長期的な価値に基づく株価形成を阻害し、市場にゆがみをもたらし得るのではないかといった指摘がありますが、このようなことについてどのように考えるのか。
まさに、今日の日経新聞の話題ですね。専門家の各委員がそれぞれの考え方を示しています。
こういう論点については、まずは専門家の見解を確認するのが一番です。コメントを引用してご紹介します。
ゆがみは市場の中で自動的に調整される
まず、一番代表的な説明とされているのが、「ゆがみは市場の中で自動的に調整される」という見解です。
有田浩之氏(ブラックロック・ジャパン株式会社代表取締役専務)
一口にインデックス運用と申しましても、さまざまな保有形態がございます。ここで論点になっておりますようなETFもおおむねインデックス運用でございますし、機関投資家が個別に運用会社と契約を持って行うパッシブ運用もインデックス運用の部類に入るわけでございますが、これが一体全体、運用市場の中でどのくらいの割合を占めているのかというのは、実は統計が非常に難しいことでございまして、なかなか実態がつかめないという状況でございます。
おそらく過半にはなっていない、というのが現状の理解なわけですけれども、それがここの論点で示されておりますように過大に増えた場合、株価形成に影響があるかという点につきましては、私どもは確かにそうかもしれないという考えでございます。
ただ、一方でインデックス運用が増加して、もしご懸念のような株価形成が一時的にゆがめられるような状況になった場合は、市場が合理的に形成されているならば、ここぞとばかりにアクティブ運用、アルファを求めるトレードが増加するはずでございますので、そうなりますと、そういったゆがみは市場の中で自動的に調整されると、そのように私どもは考えております。
なるほど。ゆがみが生じれば、アクティブ運用にチャンスがでてくるということですね。
また、インデックス運用の割合を把握することも難しいことが指摘されています。この指摘も重要だと思います。
市場が歪んでも調整機能は働いていない
他方で、「市場の調整機能は働いていない」という指摘もなされています。
鹿毛雄氏(ブラックストーン・グループ・ジャパン株式会社特別顧問)
インデックス運用が市場を歪めないかという点です。この点については基本的に有田さんのご説明のとおりですが、現時点のマーケットには必ずしもそういう機能が働いていないわけです。
ここにいる皆様がよくご存じのように、日本だけではなくて世界の主要国において強力な金融緩和政策が行われている結果、現実に株式の本源的価値と市場価格がかなり離れているなというのが一般的な認識だと思います。両者が離れていながら調整機能が働いていないという方が問題です。
つまりインデックスファンドが増えていくことが市場を歪めるのではなくて、市場が歪んでくるとインデックスファンドが機能しにくくなっていくという論理構成ではないかと思います。
世界の金融市場は複雑に動いています。かんたんに市場の調整機能が働く、ともいいきれないという指摘もなるほど、と思うところです。
市場の価格形成が情報効率的であるとは限らない
また、「市場の価格形成が情報効率的である状態が続くとは限らない」という指摘もあります。
池尾 和人氏(慶應義塾大学経済学部教授)
効率市場のパラドックスという話があって、資本市場がほんとに情報効率的で価格に全ての情報が織り込まれているならば、自分で情報なんか集めないで、価格だけ見て投資をするのがコストはかからなくて一番いいわけですよね。
ただ、コストがかからなくて一番いいということで、みんながその価格だけ見て投資をするようになったら、誰が価格に情報を織り込む活動をするのだというパラドックスがあります。
それでインデックス運用に代表されるような、価格だけを見て投資をする人が増えてきたときに結果として市場価格にゆがみが生じると、アクティブ運用のリターンが上がって、情報生産活動が自動的に増大してというふうになれば、ほんとにそれはいいと思うのですが、でも、アクティブ運用をする人はコストをかけて情報生産活動をするわけですけれども、コストをかけた情報生産活動の成果というのは、全てその活動をした人に返ってくるわけではなくて、価格に情報が織り込まれることを通じてマーケット全体にその利益は拡散するわけですよね。
言い方を変えると、経済学で言う外部性がそこに存在するわけですから、リターンが全て当人に帰属するのであれば、適正なレベルの生産活動が行われると言い切って構わないんですけれども、今、申し上げたような外部性がある場合に、必ずそういうふうに適正なレベルの情報生産活動が行われて、市場の価格形成が情報効率的である状態がずっとキープされるというのは、ちょっと私は経済学者のせいか知りませんが、懐疑的なところがあって、やはり論点としては存在していると思います。
かなり難しい内容ですが、理論通りにいくとは限らないという指摘というふうに整理することができます。
「価格形成に問題は発生しない」というのが通常の理論
最後は、「インデックスファンドがあったとしても、市場が効率的なので、裁定取引が適切に働いてその価格形成に問題は発生しない」という指摘です。
福田慎一氏(東京大学大学院経済学研究科教授)
経済学の教科書、大学で教えていることと金融市場で実際に起こっていることは必ずしも一致しないことも少なくありません。
だから、学生には間違ったことを教えている可能性はたくさんあるわけですけれども、そういう意味では、まず私が大学で通常教えることは、池尾先生のご意見じゃなくて、むしろマーケットの方がおっしゃったように、インデックスファンドがあったとしても、市場が効率的なので、裁定取引が適切に働いてその価格形成に問題は発生しないのだろうとは思います。これが通常の理論だと。
ただし、数年前にノーベル経済学賞で、ファーマという効率市場仮説を受賞した方と、シラーという方が同時に受賞したことからもわかるように、経済学者の間でも意見は大きく分かれていると思います。シラーという学者は効率市場仮説を否定する方なのですけれども、そのような学者もノーベル賞をとれるような、尊敬されているのだということがある。
そう考えると、池尾先生のご意見も、まさしくそのとおりなのだろうと思いますので、そこら辺はなかなか難しい問題だろうとは思います。
福田教授の見解がまとめ的な感じがしました。基本的には、市場が効率的なので、ゆがみは調整されるというのが通常の考え方だということです。ただ、理論通りにいかない可能性もありうるというところはふまえておくべき、ということができそうです。
まとめ
ということで、専門家の間でも意見が分かれていることがわかりますが、ポイントをまとめてみたいと思います。
今日わかったことは3つです。
- 一般的な理論は、インデックス運用が増加しても、市場が効率的なので、アクティブ運用のトレードが増加し、ゆがみは市場の中で自動的に調整されるという考え方である
- ただし、市場の調整機能が常に有効に作用するとはかぎらないというのも考え方としてありうる
- インデックス運用が、運用市場の中でどのくらいの割合を占めているのかというのは、実は統計が非常に難しい
基本的には、市場が効率的なので、アクティウム運用のトレードでゆがみは調整されるというのが一般的な理解です。
また、今日の日経新聞の「約8割がインデックス運用」という紹介をしていましたが、それは本当なのかな?という疑問もわいてきます。
ここまでわかってくると、今朝の日経新聞の記事でも大事な点が指摘されていることに気づきます。
「多数のアクティブ運用者に頑張ってもらってこそ市場は効率化し、インデックス運用も機能する」
インデックス投資をするなら理解しておきたいのは、多数のアクティブ運用をしている人に頑張ってもらってこそ、インデックス運用も機能するという点です。
ゆがみが生じたらアクティブ運用のチャンスなのです。優良なアクティブファンドが増えれば、市場は効率化するということです。
そうであれば優良なアクティブファンドももっと増えて、アクティブ運用で成果をだすファンドマネージャーがたくさんでてきてほしいな…というのが私の今日の感想です。
インデックス運用とアクティブ運用は両輪です。双方が適切に成長していけるといいですね。
以上、インデックス運用は市場を歪めるのか?という論点を理解するための3つのポイント…という話題でした。