2021/08/13

6月4日の日経新聞に「投資心理の落とし穴、行動経済学で探る」という記事がありました。日経マネー7月号の抜粋記事です。
記事では、行動経済学で取り上げられる「感応度逓減性」と「参照点依存性」について紹介されています。おもしろかったので取り上げたいと思います。
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感応度逓減性とは「感覚のまひ」のこと
感応度逓減性(かんのうどていげんせい)とは、ざっくりいえば、損失や利益の額が大きくなればなるほど「感覚のまひ」がおこることです。
記事では次のように紹介されています。
「損や得は、度合いが増すと、だんだん感覚がまひしていく傾向がある」と、東京大学大学院特任准教授で、行動経済学の視点から人の意思決定や行動を研究する古川雅一氏は言う。
例えば、100万円で買った株が最初に10万円分下がって90万円になった時の損失感は大きいが、90万円が85万円になり、80万円になりと含み損が徐々に拡大していっても、当初ほどの損失感は抱かない。このような感情の性質を「感応度逓減性」という。
最初の痛みの時に潔く損切りができればいいのだが、「その機会を逃すと、その後はずるずると下落する株価に付き合うことになりかねない」(古川氏)。塩漬け株を抱え続けることに対して、鈍感になるのだ。
このように、利益が出れば「利益を確定させよう」と早く売ってしまい、損をすれば「もう少し待てば回復する」と損切りが遅くなったりすることをいいます。
個別株のトレードをしている人にとっては、自分自身の満足度を基準に判断すると損切りが遅くなり、利食いが早くなるのでトータルではあまり儲からない、ということになります。
参照点依存性とは「基準からの変化」のこと
参照点依存症は、人の感覚というものは、絶対的基準ではなく、ある基準からの変化によって決定されることです。人は、参照点からの変化に強く反応するということです。
記事では次のように紹介されています。
人は損得を測る上での基準(参照点)を持っており、そこからの変化で損や得の度合いを判断する。これを「参照点依存性」という。この基準を無意識に動かしてしまうことが、売り時を逃す原因だ。
例えば、株価が1000円から1300円に短期間で上昇。その後、しばらく間を置いて1400円になったとする。当初の株価からは400円も高くなっているのだが、もっと上がるのではと思い、利益を確定できないことがある。買った段階では「1400円になったら売ろう」と考えていた人でも、もう少し待ってみようか、となる。
これは、利益の度合いを測る参照点を、当初の1000円から1300円に無意識に動かしているから。1300円と比べたら上昇は100円。もっと上がり目があるかもと考えてしまう。
逆に、株価が段階的に下がっていくようなケースでも、参照点を動かしてしまうと損切りがなかなかできない。
これは、お腹が減っているときにラーメンを食べたときと、飲み会後の満腹時のラーメンの違いといえば、わかりやすいでしょうか。
ラーメンの満足度は、明らかにお腹が減っているときのほうが高いわけです。飲み会後の〆のラーメンは、そこそこ美味しいわけですが、翌日に後悔が残ることもあります。
投資の世界でも同じです。参照点にこだわったり、参照点をずらしてしまうと、利益をだすことが難しくなります。
インデックス投資だとどうなる?
行動経済学のことを知っておくことは、インデックス投資でもプラスに働きます。インデックス投資だとどうなるのでしょうか。
インデックス投資で「損切り」は考えなくていい
感応度逓減性とは「感覚のまひ」でした。損をしてもどんどんまひしてしまい、損切りが難しくなります。
重要なことは、そもそもインデックス投資は相場を読んで損切りをしたりする投資ではないということです。
「長期的にみれば世界経済は成長する」という確信を持っているなら、損切りなどせず保有し続けたほうがいいということになります。
評価額が下がればどんどん損に対して「感覚のまひ」がおこるわけですが、損切りをしないインデックス投資なら問題がないことになります。
むしろ、「感覚のまひ」は長期投資の味方になります。
積立投資なら「参照点」がわからなくなる
毎月定額で積立投資をするメリットのひとつは、参照点が気にならなくなることです。
参照点がわかると、「得した」とか「損した」ということがはっきりしますが、積立投資の場合は、投資信託の購入価格は分散しますし、参照点は次々と変わることになります。
私のように、毎月の評価額すらブログに記録しないでいると、ほとんど参照点がわからなくなっています。笑
売るタイミングをしばらく考えなくていいのですから、むしろ参照点に依存しないほうがいいともいえます。
インデックス投資でも、「参照点依存性」はやり方を間違えなければ問題になりません。
やり方を間違えなければ、インデックス投資は心理的に楽な投資法
こうした行動経済学で説明される人間の心理はよく理解できるところです。
個別株のトレードのように、頻繁に取引を繰り返すような投資の場合には、自分の気持ちと戦いながら利益をだす必要があります。
インデックス投資なら、損切りも利益確定も考えなくていいので、「感応度逓減性」も「参照点依存性」も大きく問題になりません。
唯一あるとすれば、一括投資でリスクをとりすぎたような場合には、下落局面で「参照点依存症」に悩まされることになります。
ですので、インデックス投資でも基本が大事になります。
積立投資で時間を分散すること、世界分散投資でリスクを抑えること、低コストのインデックスファンドを選ぶことが重要です。
それさえ守れば、インデックス投資は、心理的にも楽な投資法です。刺激が足りなくて物足りないという感想は、このあたりの心理面が関係していると思います。
私にとっては、仕事に集中できて知らないところで平穏に投資を続けられることが、大きなメリットになっています。