2021/08/13
今朝の日経新聞には、経済対策としてNISAの拡充を検討するという記事がありました。ただ、記事を読んでも、どういうことなのかがよくわかりません。
よくわからないので、NISAをめぐる最近の新聞記事などをいくつか拾い読みしてみました。その内容を紹介したいと思います。
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経済対策としてのNISA拡充
今日の日経新聞には、経済対策としてNISAを拡充するとあります。どういうことなのでしょうか。
金融庁は経済対策として、年120万円までの投資で得た売却益や配当を最大5年間非課税とする少額投資非課税制度(NISA)の拡充を検討する。利用者の裾野を広げる少額積み立ての促進策が柱になる見通し。
金融庁は投資先や投資期間の分散につながるとして、NISAの少額積み立て利用を推奨している。契約にもとづいて定期的に株式を買い付ける金融機関にとっても、相場環境に左右されずに安定的に手数料収入が見込めるメリットがある。このため毎月の少額積み立ての利用を促すための制度拡充を検討する。
記事には、「毎月の少額積み立ての利用を促すための制度拡充を検討」とあります。利用者に毎月の積み立てを促したいのであれば、NISAの恒久化が解決策としては素直な答えです。
ですが、そうとも書いてありません。どういうことなのか、この記事からはよくわかりません。
NISA恒久化は「ただちに実現する見通しにはない」?
日本証券業協会の稲野和利会長は、NISA恒久化推進の立場の方です。
稲野会長は先月の日経新聞の記事で、「投資期間が5年間に限られる現状は極めて不完全。NISAの恒久化が最大の目標」と述べています。
しかしその一方で、先月の別の報道では、稲野会長は、NISAの恒久化は「ただちに実現する見通しにはない」と述べたといいます。どういうことなのでしょうか。
以下、記事の内容です。
稲野会長は会見で、日証協として口座開設期限と非課税期間双方の恒久化を求めていくが、非課税期間の恒久化が「ただちに実現する見通しにはない」と述べた。そのうえで、非課税期間の延長実現を「将来に向けた意義のあるステップとして前進していきたい」と述べた。
理由はよくわかりませんが、NISA恒久化はかんたんには実現する話ではなさそうです。
非課税期間5年は長期投資にマイナス
稲野会長は、雑誌の特別寄稿でNISAの問題点を明確に指摘しています。
平成29年には恒久化を決定するか、少なくとも非課税期間を延長するなどの手当てが必要であると考えています。非課税期間が終了する時点で投資家は「全部売却・ 一部売却」、「翌年以降の枠を利用してのロールオーバー」、「特定口座・一般口座への移管」 等の判断を迫られることになりますが、本来は投資家が行う売買のタイミングが、純粋な投資判断以外の他律的な要素で決まってしまうことは、一種の不条理であるとも言えます。 更に言えば、非課税期間が5年と限定されていることは投資行動にも影響を与え、売却誘因として働きやすくなるとも考えられます。
稲野和利「これからの証券市場を展望して」(月刊資本市場)
記事にあるように、「本来は投資家が行う売買のタイミングが、純粋な投資判断以外の他律的な要素で決まってしまうことは、一種の不条理である」という指摘は、おっしゃる通りだと思います。
同じように、「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」の水瀬ケンイチさんも同様の問題点を指摘しています。
「NISAの恒久化」が現在の非課税期間のまま、時限立法が恒久化されるだけだと、どうなるか。
短期だか長期だか微妙な、「ちょうど5年後にプラスになっている商品を当てに行く大会」が、2023年以降も毎年、毎年、くり返し行われるだけの形となり、金融庁などが目指している「個人の長期投資促進」という目的と合致しません。
「ちょうど5年後にプラスになっている商品を当てに行く大会」と言われると、なんだかちょっと楽しそうです。
ですが、NISA口座でそんな大会がしたいわけではなく、非課税口座を利用して長期で資産形成をしたい人が圧倒的に多いはずです。
非課税期間の5年の制限は長期投資にマイナスに働きます。
非課税期間5年の恒久化は?
このように、非課税期間を5年に制限していることは問題がありそうなわけですが、恒久化の議論は、どうも進んでいないというのが現状のようです。
今月の日経新聞に掲載されたフィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史さんのコラムに、ちょっとしたヒントがありました。
積立投資を促すようNISAを改善できれば若年層の活用も進むはずだが、そのためには恒久化が必要だ。現状、投資可能期間10年については恒久化が今年の骨太方針に盛り込まれたが、時期は明示されていない。非課税期間5年の恒久化についても議論が進んでいない。
英国のお手本に倣えば、5年も10年も一気に恒久化すべきものだ。ただ、非課税期間を恒久化すると、毎年の非課税投資額の累計が無限大になり、「金持ち優遇」批判を招きかねない。慎重になるのもわかるが、策はあるはずだ。
例えば、英国同様の「生涯拠出上限」を導入する手だ。現行の5年間累計投資額600万円を当面の生涯拠出上限額として設定し、5年も10年も一気に恒久化する。これなら「金持ち優遇」にはならない。一気に600万円投じる人もいるだろうが、若者は月2万円ずつ25年間かけて積立投資ができるようになる。
このコラムによれば、「非課税期間を恒久化すると、毎年の非課税投資額の累計が無限大になり、「金持ち優遇」批判を招きかねない」ことが、非課税期間5年を恒久化することの問題点のようです。これはかねてから指摘されていた点です。
イギリスのように、「生涯拠出上限」を導入すれば問題は解消できるというのが野尻哲史さんの見解です。
無制限な非課税が問題だということであれば、イギリスのような工夫をすることが、対応策のひとつになりそうです。
ぜひオープンな議論を
複数の新聞記事で、なんとなくの様子は見えてきましたが、新聞報道などではよくわからないというのが正直な感想です。
個人を投資に向かわせたいのであれば、NISAの恒久化が望ましいというのは、多くの方が指摘されているところです。
投資可能期間10年の恒久化にあわせて、NISAの非課税期間5年についても恒久化するというのが大事な点だと思います。
最近の金融庁は、積極的に個人の資産形成を促す政策を打ち出していて好感が持てます。
NISAの改革の方向性については、一般の人にもある程度の情報を開示しながら、ぜひオープンな議論のなかで個人の資産形成を促す政策決定をしてほしいと思います。